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廣田 尚敬 '75 蝸牛社 |
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おなじみ廣田氏のエッセイ集です。あちこちに発表された氏のエッセイをまとめたもので 氏としても感慨深いものがあると思います。 引用) 長い道程 山里の静かな駅。木製のベンチに深く腰を下ろして、私はさきほどから、峠 を越えてきた小さな機関車と対面している。 隧道の向こう側で驟雨にあったのだろう。ランボードの水滴が玻璃のように 輝いてみえる。濡れたボイラから立ちのぼる陽炎。乱れた息をととのえ、何度 も身震いをしながら機関車は熱い火照りをさまそうとしている。 強風と豪雨との峻烈な戦いがあった。 彼を抹殺するかのように狂い、襲いかかる大気の牙、揺れ動く大地。黒い林 は風雨に味方し、増幅して吼える。あの千分の三十三の上り勾配では調子も乱 れ、空転の響きが大空に谺したことだろう。 しかし、大自然の猛威に挑む不屈の炎熱が、遂に勝利の雄叫びを山々に響か せたのだった。彼がこれまで歩んできた長い道程が、私にはよく見える。 膝の上のカメラを引き寄せると、私はゆっくりと立ち上がった。ホームの庇の 蔓草模様はセピア色に褪せ、その下を燕が赤いのどを見みせながら飛び交ってい た。 | |


